UXデザインって一体なんだろう、と20年携わっておもったこと
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UX(User Experience, ユーザー体験) または UXデザインという言葉をこの10年で非常に良く聞くようになりました。このブログを読んで頂いている方も一度は聞いたことがあるのではないでしょうか? Webデザイン会社やIT関連の会社の人材募集には「UIUXデザイナー」が常に登場する、花形職業みたいにもなっています。私は、ソニーで働いていた頃、丁度2000年前後に「UX」という言葉を聞きました。当時、ネットで検索してもUXに関する情報は日本語のサイトではほぼ皆無だったのを今でも覚えています。その頃からUXに携わり始めたので、UXデザイン歴でいうと丁度20年になります。
最近、学生や若いデザイナーから
UXデザイナーになるにはどうしたらいいか?
UXは何を勉強すればいいか
UXが広すぎてどこから手を付けていいかわからない
といった質問を良く受けるようになりました。同じ頃からUXに携わってきたかつての先輩と改めて「UXデザイナー(UXデザイン)ってなんだ」とディスカッションしていく中で、UXは特別なものでもなければIT専売特許の専門技術でもないことを改めて感じました。今回は、
UXデザインは昔から存在している、広くて、クリエイティブな活動である
ということを話そうと思います。
UXデザインとは
さてUXデザインとは何でしょうか?弊社のブログでもUXについては散々記載しましたが、私は以下のように考えています。
UXデザインはその文字通り、人の体験をデザインすること。ユーザーに限らずに関係する人々の体験を創り、体験価値を向上させるための行為・意匠・設計。
デザインの定義を広義に捉える。体験を創っていくクリエイティブな作業があって、その作業において体験価値を数値化し評価したり様々な価値観や行動を調査分析するために様々な手法やスキーム(枠組み)が存在する。
WebやネットサービスなどのIT業界に限定するものではなく、人の体験に関わるすべての業界や事象に適用できる。対象は、利用者(ユーザー)だけでなく、ユーザー候補からはじまり、関わる人達、社会環境まで昇華されても良い。
UXやUXデザインのセミナーや書籍では、この考えの中でいう、評価手法やスキームばかりが中心に書かれているように思います。ペルソナ、カスタマージャーニーマップ、KA法… 様々な手法やツールがUXの本やサイトでは紹介されます。ワークショップなどでやった事がある人も多いではないでしょうか。
私がこの20年以上、UXデザインと信じていた活動は、ほとんどが新しい商品やサービスや空間づくりです。今まで体験したことがないことや価値ある体験を創り出すための活動をしてきました。ソニーでの勤務時代、「人がやらないことをやる」というソニーカルチャーの中で、プランナー、デザイナー、エンジニアら様々な職種の人達が入り交じって「我々が最初に新しいカルチャーと体験をつくりだすぞ!」とやっきになっていた、まさにクリエイティブな仕事、それがUXデザインでした。
その当時には、今のようなUXの手法は確立されていなかったので、自分たちで仮想ユーザーを作りあげて議論したり、どういう心理や感情状態になるのだろうと必死に考えたものでした。その当時の世界中の人達が、これら体験づくりで悩み苦労した結果から、今の手法やスキームが生まれたのです。
体験はどうしても、楽しい、嬉しい、面白い、使いやすい、といった形容詞に代表される価値になるため、これらを数値化したり評価するための手法や調査が必須です。そのためのリサーチやテスト方法がどんどん研究されて今、色々な形で確立されているのです。よって、それらの手法を知るのは大事なことですが、本来の「体験をデザインする(創る)」を忘れてはいけない、そう思っています。
広くて深いUX
UXまたはUXデザインがここまでIT業界で広がった理由は、UI(ユーザーインターフェース)設計との相性が良い、つまりセットで考えられることが多かったからでしょう。今でもUI/UXという表記で良くみるのもその名残にも思えます(ここではUI/UX表記の是非はおいておきます)。
たしかに、スマフォアプリの体験価値を良くするために、UIの設計も大きく関わってきます。ただしそれらはUXの中のほんの一部です。ここでは、よくUX(UX Design)の領域図や概念図式化を紹介します。
Erik Flowers 氏が書いたUXの関わる領域です。ビジネスとテクノロジーとデザインの3領域が重なる部分にUXが示されています。決して、技術とデザインだけ、デザインとビジネスだけ、ではなく3つの領域をバランス良く見て体験を最適化していくことが求められていると解釈しています。
UXデザインに関わる学問や分野の概念図を envis precisely GmbH が2009年に発表しています(Dan Saffer氏が作成した図をさらに追加したものになります)。これを見るとUXには、心理学や社会学も近くにあり、空間デザインやコミュニケーションなども含んでいることがわかります。
弊社の得意とする音声UI(Voice UI) のUXデザインでは、この図にはない、言語学、音声学、文化人類学なども入ってくるため、更に大きな図になりそうです。
また最近は、ユーザー=利用者、だけでなく、顧客全体を対象にしたCX(Customer Experience)、そして更に上位のサービスや企業のブランド体験までも考える、BX(Brand Experience) という概念も出て来ています。
このようにUXは非常に領域は広く、一言では言い表せない分野になっているのです。
D.A.ノーマン執筆の「誰のためのデザイン?」を参考図書にあげるUXデザイナーがいますが、それはあくまでも「認知」や「UI」の世界でのUXデザインの良書であって、UXデザイン全体を俯瞰するものではありません。とはいえ、読んでおいて損はないのですが、これがUXの基本であり、わからないとダメ、ということではありません。
まとめ
体験価値を上げる為の企業努力は今にはじまったわけではありません。
有名な老舗のホテル、料亭、テーマパークでは日々顧客の体験づくりを考えて実践しています。それはWebなど無かった時代からあったはずです。つまり、UXデザインは近年見つかった魔法の杖でもなく、昔から顧客やブランドを考えている会社であれば、当たり前のように考えられていた作業だと思います。もはやどの業界、どの職種でも「UXデザイン」は当たり前の、必須のスキルなのかもしれません。
ネオマデザインでは、業務プロセスにあるように、コンセプトやビジョンメイキングをし、シナリオストーリーなどからユースケース(利用シーン)など体験を創っていきます。その時に、既存のツールを使う時もあれば、新しい手法をその都度考えることもあります。数字で評価しにくい「体験価値」を作る、まさにゼロから産み出す作業においては、手探りの中で新しいツールすら生み出すのも大事なことだと思っています。
冒頭に書いた「UXデザイナーになるためにどんな勉強をしたら良いか」について答えていませんでした。
まず、UXデザインはこのようにあまりにも広いので、「どの業界、どの領域の中で自分にとってUXデザインするのに向いているか」を探すと良いでしょう。ITで言えば Web系がいいのか、スマフォアプリがいいのか。メディアが決まってもそこで考慮する業界が医療とゲームではユーザーの体験は全く違ってきます。建築空間、美容業界、人が関わるなら必ずUXは存在します。もし着地点が自分にとってあまり相性が良くなかった、としても、それまでに学んだ「UXデザイン」はきっと生かされると思います。おそらくペルソナなんてのもきっと、途中で学ぶでしょうから。そして、色々なことを「体験する」ことが大事だと思っています。
最後に人の「価値」はまさに千差万別です。色々な考え方があります。そんな人の考え方や価値観を知るにも「哲学」は良い勉強になるとこの数年で私は学びました。哲学とUX、なかなかの組み合わせですが、これも面白いので、また別の機会にブログにしようと思います。