UXは揺れ動く人の価値観や感情との戦い
読了時間: 約 11 分
顧客体験創り(UXデザイン)は、人間自身を知ることです。以前、ネオマデザインのブログでも「人を知ろう」と何度も書きました。
コンピューターなどのシステムとは違って、
- 人の価値観は人の数だけ違う
- その価値観や考え方が一瞬で変わってしまう
という難しさがあります。これは非常に顧客体験(UX)を考える上で厄介です。なんとなく、ステレオタイプ的ではありますが、性別、年齢層、国である程度は括ることはあっても、やはり皆が同じということは少ないのです。
100点満点のUXなんてのは存在しない
そして更に厄介なのは、1人の人の価値観や考え方ですら一瞬で揺れ動いてしまうのです。
今回は、そんな厄介な人間の価値観や考え方について少しお話します。インタビューやユーザーテストのヒアリングなど行う人は、特に知っておくと良いでしょう。
人はバイアス(思い込み)に左右されやすい
人間は、ちょっとしたことで「思い込み」というバイアスが起こる動物です。
ここで面白い実例を出しましょう。
以前、開発中のシステム(GUI)のユーザビリティテスト (GUIの操作性や利便性を実際に触ってもらう試験)をしたことがあります。一通り良い点悪い点を評価してもらい、「頂いた点をなるべく改善するように更に開発を続けます。有り難うございました。」と言い謝礼を渡しました。
そして、約2週間後に改めてそのテストテストした人達を呼び、システム(GUI)に触ってもらいました。実は、このときに数名は全く以前のままのUI、つまり、2週間前と同じ状態でしたが、結果として
・以前よりもキビキビ動いているように感じる
・こっちのUIのほうが良いね
との返事が!改善されてないのに、改善したかのようなコメントを出してきたのです。
なぜこんなことが起こったのでしょうか?
まず、改めて呼ばれたから「改善されているものを触る」というバイアスを自分で勝手にかけていた可能性があります。なお、このテストの前に「改善しましたので」とは伝えず「前回と同じテストをしますので、素直にお答えください」と伝えているのですが、頭の中では勝手に「改善されたんだな」「以前から変わっている」と思い込んだ可能性があります。
同じように、「これは弊社の次世代の〜」とテストよりも前に伝えると、次世代=新しい=最先端なんだ!というバイアスがかかるため、例え20年ぐらい前に考えた既知のものでも、「最先端っぽいです!」なんてユーザーはあっさり言うことがあります。これも「次世代の」なんて言われたことで「未知の、新しい」というバイアスがかかってしまったと思われます。
このように、ユーザーインタビュー(ヒアリング)やテストの時に、インタビューする側の発言などで簡単に結果が変わるため、発言は非常に慎重にする必要があります。セリフを紙に書いて読むぐらいの慎重さが必要です。
これらのバイアスのかかった行動は、行動経済学の「アンカリング」にも近い行動心理です(実際、アンカリングは認知バイアスの一種と言われています)。
価値観は前後の事象で揺れ動く
自動販売機などのシステムは、入力が同じならば出力は法則(プログラム、仕様)に従います。寒い日にはなかなかボタンを押しても出てこない、とか、あまり買ってもらえないから、すねて商品を出し惜しみする、そんな曖昧さは当然ながらシステムでは存在しません。そんなことがあったら困りますね。
一方で、人間は同じ条件下での入力でも違う出力がでてきます。
周りにその日の気分で(同じことでも)返事や反応が違う人がいませんか?
もしかしたら、あなた自身がそうですか?
街中で人とぶつかった時、真っ先に「すみません」といつもは出るのに、イライラしていたから無言で通り過ぎてしまった、とか。その時の心理や感情状態によって人間は同じ入力でも異なる出力(言動など)が変わってきます。その心理や感情状態の変化は、まさに過去の事象に影響されていると言えるでしょう。
通常時では「こうだ」という価値観や考え方も状況によっては当たり前のように変わる、それが人間で、私は非常に人間らしくて面白いと思っています。
しかし、そんな人間の思わせぶりさが体験価値設計(UXデザイン)するときには牙を向くのです。
インタビューや記述式アンケートで、同じような質問がちょこちょこ出てくることがありますが、御存じでしたか?あれ、さっきも似たような質問なかったかな、というアンケートがあります。なぜだかわかりますか?
これは、その前の質問の影響を受ける人がいるため、何度か同じ質問をして、その影響を減らすための工夫なのです。
順序依存性などとも言うようです。A→B→C という順で C を見た時と、C→B→A, A→C→B で見たときでCの感覚が変わるというものです。車や洋服とか悩んだときに、最初見たときは良いと感じたけど、気になっていた直前のをもう一度みたら、どっちもよく見えてきた…とか、ありませんか?
このように事前の質問や内容で人間は、価値観や考えがころっと変わってしまう、そしてそれに本人すら気がつかない動物なのです。これは非常に厄介です。
日本人に強いバンドワゴン効果
人はそれぞれ自分のこだわりや価値観というのを持っています。私は、絶対これだけは自分の信念がある、評価軸をもっている、といっていても、案外それも、ある単純なきっかけで変わってしまうことがあります。
ここでは行動経済学で有名なバンドワゴン効果を取り上げます。バンドワゴン効果とは、
バンドワゴン効果(英: bandwagon effect)とは多数がある選択肢を選択している現象が、その選択肢を選択する者を更に増大させる効果。– wikipedia より
と記載があります。下記、PLANT-B 様のWebマーケッティングのページも分かりやすいので載せておきます。
みんな知ってる!バンドワゴン効果とは?:行動心理学の意味~事例まで PINTO! by PLAN-B
- 「みんなやっているから安心!」
- 「みんな持っているから自分も欲しい!」
- 「テレビで流行っているっていってるし、乗らないと!」
日本人といえばバンドワゴン効果、と教えられたぐらいなのですが、聞くと日本人らしい行動心理だと思いませんか?
日本人のバンドワゴン効果についての是非をここでは議論するわけではないので避けますが、昨日まで「アニメ?子供の見るものでしょ?」なんていった人が急に「私の推し柱は〜」なんて鬼滅の刃の話をしはじめた、なんてことはないでしょうか?
音声版 Twitter などと言わた音声SNSサービス「clubhouse」 の日本における一瞬のブームも、まさにバンドワゴン効果だと思います。そのサービスの体験の良さで注目されたというよりも、招待制で、かつ、今までにない体験かもしれないという期待と共に既存のSNS上で毎日話題になったことによって、なんだかよく分からないけど、みんながいうから clubhouse 良さそう、みたいな心理になってしまうのです。
これをサービス開始するまえに予期するには、UXデザイナーとしてはなかなか難しいと思えます。どちらかというと仕掛け人あっての、という気がしています。
バンドワゴン効果が怖いのは、これまでの話と同様にブームが去ると途端にその価値が落ちることです。一方で、その効果が効いているときは、本質的な体験よりも「なんとなく皆がそういうので」という個人の本質的な価値や意識が薄くなっていることです(もちろん、バンドワゴン効果の中においても、しっかりと本質を見抜いている方もいらっしゃることも付け加えておきます)。
まとめ
消費者に、何が欲しいか聞いてそれを実際与えようとしてもダメだ。完成するころには、彼らは新しいものを欲しがるだろう。(Steve Jobs, 1989)
テスト中に、誰もが大きいのが良いとコメントした。大きい筐体にして売り出したら、「こんなに大きいのはいらない」と叩かれて競合他社(ゲームボーイ)に顧客が流れてしまった。(リンクス設計者)
これは、以前のブログ UXを考える上での落とし穴 Part-2 で紹介しました。「ユーザ(顧客)は何が問題でどうすればいいか、何がいいかを実は分かっていない」という有名な話です。これもまさに人の体験価値や考え方が刻々と変化することを示しています。
昨年から続く新型コロナウィルスによって、今、私たちは様々な価値観が変わってきていています。「ニューノーマル」(新しい生活様式への変化と対応)なんて言葉も登場してきました。
出社する意味とは何だったんだろうか…
UX(CX)デザイナーを目指す方は、ぜひ、心理学や行動経済学などは勉強しておいて損はないと思います。
こんなに複雑な人間を相手にするですから、UX, CX(Customer Experience) デザインは難しいのです。でも、だからこそでしょうか、長年コンピューターと触れていた私にとっては、その不確実性、つまり、人間らしさ、が面白いと思うのです。
興味がある方は、下記の弊社ブログもぜひ読んで見てください。
UXを考える上での落とし穴 Part-1
UXを考える上での落とし穴 Part-2
UXデザイナーに必要な5つのこと
UXデザインって一体なんだろう、と20年携わっておもったこと