トイレのサインから見る、人の認知能力とUX
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世界中どこに行っても気になるのは “トイレの場所” ではないでしょうか?
こればかりは人間である以上きってもきれない問題です。案内型デジタルサイネージにしろ単なるフロアマップにしろトイレを探す人は結構多い気がします。私は学生時代に横浜の地下街でアルバイトをしていたのですが、トイレの場所と路線案内(東横線や相鉄線への行き方)を聞かれることが非常に多かったのを覚えています。
さて、そのトイレまで行く間、基本的に我々はトイレのサインやピクトグラムを探し、そのサインの方向を目安に向かいます。そして、大抵のトイレは男女別々であり、それを明示するサイン(ピクトグラム)を見て入ります。
これはショッピングモール “イオン” のトイレですがユニバーサルデザインを考慮して設計されていて非常に綺麗で使いやすいものになっています。
我々が海外に行った際に現地の言葉での “トイレ” という単語を忘れていても、ちゃんとサインを手がかりに間違わずに安心してトイレまでたどり着けるというのは非常にありがたいものです。UXがちゃんとできています。そのサインが遠くからでもちゃんと見えて分かりやすければなおさら良いですね。
サインの色分け
さて、そのトイレのサイン。トイレに行くたびに空間UXデザイナーとしての視点で見て凄く気になっていたことがあります。
それは男女のサインの色分けです。
日本では男性が主に青色系統または黒系統、女性が赤色系統の色に分けられているところが多いようです。
実は海外ではこの男女のトイレサインの色分けは割と稀な例で、男女とも同色が一般的なのです。
色分けしないでどう区別しているのかというとサインのデザインや文言(Man/Woman, 男性/女性, …等) で示しています。ではなぜ海外では色区別がないのでしょうか?
一つは、色弱者への配慮です。
色の違いが非常に少なく見えてしまう色弱者が性別の違うトイレに入ってしまうこともあるようです。性別の違うトイレにうっかりはいってしまうのはやはりトラブルの元になります。
日本でも最近はWebサイトやUIにおいてカラーユニバーサルデザインについて考えるようになってきています。(参考:福島県生活環境部人権男女共生課発行 カラーユニバーサルデザインガイドブック) しかし、昔からの風習なのか、青系/赤系の色分けしているところがまだまだ多いようです。
ではいつから男女の色分けをはじめたのでしょうか?
『1964年の東京オリンピックあたりで始まり大阪万博で一気に広がった』説がネットで検索すると出てきます。正確に明示された証拠文献までたどりつきませんでしたが、デザイン関連の教授等がテレビでこの節を断言しているようです。
- 芝浦工業大学 増成教授の blog “トイレのマークと東京オリンピック”
- フジテレビ “そもそも” トイレマークが色分けされたのは東京オリンピックからなの?
人型のデザインに関しては、男性がスカートをはく国もあれば、女性がスカートを必ずはくわけではない、ということもあり、スカートをはいたデザインだけではなく色でも男女を区別しておく、という二重の識別サインになったようです。
さて、皆さん、トイレに行ったときに男女のトイレの違いをどこでみますか?どこで識別していますか?
文字? サイン? 色分け?
おそらく色で識別している人が多いのではないでしょうか?
もちろん文字を読んで入ってるよ、という人もいるでしょう。でも、なんとなく潜在的に色でもある程度識別しているのではないでしょうか。
男女のマークの色を入れ替えて実験した事例があります(トイレの男女別識別について)。
その結果は、日本人の大半が間違ったトイレにはいったのに対して、外国人はこの間違いをするケースがすくなかったそうです。非常に興味深い結果ですね。
なお、過去に香港や中国の一部では男子トイレが赤色、女性トイレが緑色だったそうです。赤色は中国で幸運の色であり好まれる色だからとか。現在はだいぶ無くなってきてはいるそうです。
ちょっと脱線ですが、トイレなどの個室の空き/使用中が赤と青色だけで表示されているところがありますが、これも色弱者からすると分かりにくいので改善が必要かと思います。
色区別しない二つ目の理由は空間的なデザインの配慮です。
せっかくの綺麗に統一された空間内において、トイレのサインだけが赤や青で浮いてしまうのは見ていてちょっと残念に思えます。たしかに空間になじみすぎて場所がわからないサインというのは本末転倒です。
そこをちゃんと「分かりやすく見せる」かつ「空間にもマッチしている」を共存させるのがUXとして大事ではないかと思います。
実際に海外にいくと色分けしているところもありますが、日本ほどではないように感じます。世界中を歩き回ったわけではないのですが、イタリアとイギリスに長年住んでいた人に聞いたら、「男女色分けではなく、文字かデザイン的なものが普通だった」とのこと。
これは以前ラスベガス出張に行ってきた時に空港内で撮影したものです。
天井には、遠くからでもトイレとわかるようにサインがあります。白地に青円の中に黄色のピクトグラムですが、これは空港内の統一ルールになっていました。例えば、ターミナルNo.70 は、青円に黄色で70の文字がはいっていました。トイレだけ特別扱いの色ではなくデザインルールに則っています。
一方で、トイレの入口のサインは女性が丸円、男性は三角形にそれぞれ人型の絵と Woman, Man の文字です。女性は足を閉じていて、男性は足をひろげたサインになっています。
これは高級なショッピングセンターのトイレです。トイレ手前はガラスに描かれた紳士淑女の絵のサイン。そして入口ぎりぎり(写真は見え難いのですが)に、女性だと “F” の文字、男性だと “M” の文字のパネルがかけてあります。
ここで日本の事例もあげておきます。
これは羽田空港 出発ターミナルのサインです。トイレだけはカラーのピクトグラムが使われています。とくにトイレという文字によるサインはどこにもありません。トイレだけ青と赤で構成されているのは、やや浮いてみえるのですが、遠くからでもトイレがある、と日本人には理解できるので視認性のよさを考えると問題はないと思います。
そしてこのサインの通りに左に入っていくと、
トイレの入口があります。特にここにも男性/女性の文言はなく色と人型サインだけで区別されています。
こちらは都内のとある駐車場内のトイレですが、入口には男性女性の区別を示す文言サインはなく、単に青と赤の色分けした小さな人型サインのみになっています。ドアには何もかいてませんし、ちょっとこれは分かり難い気がします。
ここは男性が非常に薄い緑色、女性が黄色で区別されていました。施設の空間デザインとしては緑と黄色は非常にマッチしていました。しかし、私はトイレに行った時一瞬どっち?って悩んでしまいました。案の定、あとから来た女性が「あっ!すみません」って間違って入ってきたのを覚えています。
残念ながら(?)このブログを書くにあたり現場へ再度視察にいくと男性が緑色、女性が薄いピンク色に変っていました(写真参考)。
これらトイレの入口のようにオリジナルのサインや看板を施す場合には、「分かりやすさ」だけでなく、空間にマッチしている「心地よさ」「居心地の良さ」も考慮したデザインや配置にできるとより良いでしょう。
「分かりやすさ最優先」で大きなサインに青色と赤色の壁面にしているところもあります。確かに「分かりやすさ」は合格ですが、その場所の雰囲気に全くあっていない時もあります。
考えてみてください、高級ホテルやレストランの入っているショッピングモールでトイレだけがそんな装飾だったら…
日本の公共空間においてのサインは、認知しやすさを重視するあまりに「空間美」が非常にかけてしまっている気がしてなりません。
まとめ
日本ではお馴染の色分けしているトイレのサインと海外の事例をざっと挙げてみました。
色の違いはデザインの違いや文字を読んで理解して区別する事にくらべると、おそらく人間の認知メカニズムとしても非常に簡単で、潜在的に行えるメリットがあります。見た瞬間で区別がつくほど強烈なものです。だから信号などで使われるのです。
しかしそれが故にその潜在的な意識(無意識下による判断)に左右され、先の実験のように間違ってトイレにはいってしまうという問題もはらんでいます。また、現実的には、色弱者への考慮を考えると色だけに頼るサインは公衆の場においては危険です。今後、日本でも海外の慣習に倣って色分けしないトイレのサインが増えていくかもしれませんね。
場所を示すサインは、遠くから大まかに場所を発見してもらうためのもの、入口直前の最終的な案内と一つではありません。用途に合わせて設置場所やサインの大きさや載せる情報量も変えて行く必要があります。交通やバリアフリーに関するサインの詳しいガイドラインについては交通エコロジー・モビリティ財団(エコモ財団)のページに記載がありますので、興味がある方は一読してみると良いでしょう。
同じようなサインに見えても日本と海外ではこのような違いがあります。UXを考える時にグローバルスタンダードを目指すのであれば、ちゃんと海外の意見やネイティブ外国人をつかったユーザビリティテストをちゃんとしてみてください。
この数ヶ月トイレに行くたびにサインをじっくり見る癖がついてしまいました。あ、そうそう、色分けではないのですが、この記事を書くにあたり色々調べていたら
トイレに向かって左側に女性トイレ、右側に男性トイレを作るのが一般的
という面白い規則を知りました。米国出張時のトイレ写真をみると見事にこのルールに則ってましたが、日本だとそういうわけでもどうやらないようです。これもどういう慣習でそうなったか、時間があるときにしらべてみたいと思います。
(トイレのマークで女性が左側だから場所も左側なのかな、と私は推定していますが…)