オンラインセミナー「商業施設やテーマパークにおける体験づくりの裏側」を行いました
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学生向けオンライン講座「商業施設やテーマパークにおける体験づくりの裏側」というタイトルで弊社ネオマデザイン代表河野がセミナー登壇致しました。
質疑応答も非常に多く、UXデザイナー志望の学生らからは「世に出るまでのプロセスがわかった」「人間の行動心理をもっと知りたくなった」「UXについて誤解していた」などの声や、「裏話が面白かった」「もっと多く具体例を聞きたい」「細部のこだわりやコンセプトの重要性を再認知した」など非常に嬉しい言葉がフィードバックとしてありました。
本ブログでは、その講演内容については割愛しますが、空間体験づくり(空間体験デザイン)とは何かについて補足します。もし興味を持って頂いたらぜひお声掛けください。また講演はやりたいと思っています。
なお、この講義は、メンバーズ新型コロナウイルス学生支援プロジェクトの一環となります。メンバーズ様では、新型コロナウイルスの影響を受ける学生への支援として、社内で実施している新卒育成プログラムや業界の最前線で活躍するクリエイターによるワークショップをすべて無料・オンラインで実施しており、ネオマデザインもその趣旨に共感し参加させて頂き、今回のセミナー開催となりました。
本セミナーで話をした実例は弊社の以下の実績例になります。
- 銀座マロニエゲート2銀座:ハナドケイ(事例1)
- 某テーマパーク 期間限定AR体験アトラクション(事例2)
- フィットネスバイクスタジオ(その他事例紹介)
- インタラクティブ3Dエフェクトライブ(紹介のみ、ソニー時代の業務紹介)
ハナドケイに関しては、コンペの企画書から途中のプロトタイプや課題とその回避方法、大人の事情の話の一部、などを1時間ほどかけて話をしました。残念ながらハナドケイは現時点で撤去されたので本物をみること、体験することはできなくなりましたが、その分、どう体験デザインをしたかの詳細を発表できました。
空間体験デザイン
皆さんはUX(User Experience: 顧客体験) という言葉を聞くと、どんな業界、分野、製品やサービスを想像しますか?
多くの方は、Webやスマートフォンを中心としたアプリやネットサービスがほとんどです。つまり “IT業界” です。実際、今回参加した学生の皆さんも、そんな印象をもっていたようです。
「UX(ユーザー体験)」「体験価値デザイン」などの言葉にはどこにもIT業界を匂わせる文字はありません。実際、人の体験は、ITだけでなく、我々が生きている瞬間瞬間が体験ですので、業界を絞ることはできません。これまで、ネオマデザインでは、美容院や病院関連に対して、体験デザイン・体験価値向上のための戦略つくりをしてきました。そこには、顧客(ユーザー)だけでなく、働く従業員や近隣地域に対する活動やブランディング戦略も考えました。アパレル業にもUXデザインは使えますし、ダンスやミュージカルや芝居などの舞台業も、お客様とのコミュニケーションはあります。つまり人が関わる以上は、UXは切っても切れないものです。
UXはIT専売特許ではないのです
私は2000年前後にUXという言葉に出会いました。最初は、新しいIT技術やハードウェアなどを使い、新しい体験価値をつくることがUXの目的と思っていたのですが、突き詰めていくと、どんなツールを使うか、どんな技術を使うか、どんな業界向けか、そんなのは関係なく、UXは「体験価値を良くするための創造活動」と捉えています。
昔から人気のあるホテル・旅館・レストランでは、ずっと以前から「お客様にとっての良い体験をつくる」ための戦略、考え方をつくり実施しています。そこには、UXなんて言葉も使われないし、UXデザインのための様々な手法(ペルソナ、カスタマージャーニーマップ等)も存在しません。私が20年前にUXという言葉をしったときにも、こんな便利なUX手法(スキームやツール)があるよ、なんて教えてももらえなかったし、そもそも存在してなかったので、今はなんて便利な世の中なんだろう、とも思います。
いまはコトからモノ消費時代と言われています。単においしいコーヒーを提供するだけでは人はものたらず、例えばスターバックスコーヒーのように、心地よい内装空間にセレクションさせれたBGMが流れる。家具にも凝っている。もちろん対人サービスにも一工夫をしている。コーヒー単体の「モノ」ではなく、そこでの体験すべてに人はお金をはらっています。
遊園地などのアミューズメント施設はもちろん、店舗や商業施設といった空間においても「体験」についてもっと考えられるのではないかと思っています。
建物や空間のデザインというと「建築家」「内装デザイナー」と思う人もいるでしょう。弊社は建築業も内装業もたずさわっていません。当然、これらの空間を設計デザインする人達がいないと話になりません。彼らは「UX」という言葉を使わないだけで、使い勝手の良さ、動線などの配慮など人の「体験」を設計しています。しかし、さきほどモノからコト、という話をしたように、体験に関わる軸、時間・空間・心理・認知・行動経済額的な視点などUXに関わる様々な要素を中心に設計やデザインしているかというと、そこまではカバーできてはいません。様々な知見や経験から人の体験や環境の価値を考えて提案し、建築家やデザイナーと共に空間をつくるのが「空間体験デザイン」と考えています。
体験づくりに重要なこと
セミナーのまとめで、体験づくり(UX)に重要なことを4つ紹介したので改めて紹介します。
コンセプトやアイデンティティの重要性
軸であり骨格になるもので、UXデザインで悩んだり揉めたら戻るべき場所です。コンセプトやアイデンティティがブレ始めると様々な部分でブレがおきて実際携わる人達にも不信感が溜まります。新しく加わった人や予算の調整等の意見に左右されたりしないためにもコンセプトは揺るぎないものにしておく必要があります。
充分なリサーチ(調査)をせよ
「答えは現場またはクライアントにある」「現場に集う人やユーザーにみつかること」とこの業界では言われることがありますが、まさにこの通りなのです。その場の環境に浸るとみえてくることがあります。特に現場を知る人こそ、その知見と経験よって逆に見落としたり見えなくなっているヒントも多くあります。初見の体験の重要性もしっかり感じましょう。
プロトタイプ制作と体験デモは必須
脳内での想定、机上論をいくらやっても実際のリアルの体験とは異なるものです。そのズレをいち早くみつけるためには、やはり簡易的でもプロトタイプを作って実際に体験するのが最良です。プロトタイプを作るまでの過程などは、さまざまな手法(イタレーション、スクラム等)がありますが、何でも良いのです。とにかく、皆で体験して評価していくことが大事です。
またプロトタイプやデモを作って、早期に関係者に体験してもらうことで、「なるほどこういうものを作るのか」とか「おお、資料でみたときは半信半疑だったけど面白いね」となる場合があります。コンセプトと体験を関係者やクライアントと共有することで、方向性もブレもなくなりますし、なにより味方をつけるという意味でも良い方法です。
理論的な裏付けや数字も大事
感覚的だったり抽象的な話が多いと人は何か裏付けが欲しくなります。論文や専門書などからの理論理屈や証拠をもとに分析してみることも大事になります。「普通、こういう状況だとこうするよね」というのは、自分の思い込みかもしれません。例えば、人の目の動きに関わることであれば、眼球運動などについては医学書やその業界の文献を探せば色々とでてきます。認知工学や行動経済学などからも様々な事例や実験結果はでてきます。そういう裏付け、俗に言うエビデンス、は大事になります。もちろん、アンケートやヒアリングも大事です。
まとめ
これからの空間や施設店舗の設計には「体験デザイン」が必須と思っています。空間に集う人の心理や行動を分析し誘導する、働く人や周囲環境や社会への影響も考えながら人の体験を創造する「空間体験デザイン」をネオマデザインでは今後も推進していきます。
その手段として、音声やジェスチャーなど次世代のUIをつかうこともあれば、古典的なアナログ風手法を使うこともあるでしょう。
そして、その体験デザインをしっかりと効率良く最適化するためにも、コンセプトやアイデンティティから戦略的に創ることが近道だと信じています。「課題解決だけでなくコンセプトメイキングもやります」とネオマデザインが真っ先に言うのはそういう事なのです。
自分で考えた体験価値の理想や妄想を現実におとしていき、実際にそれを体験する人達がいて、その人達の声を聞けるというのは非常に楽しくやりがいがあります。「UXはITの専売特許ではない、人に関わる全てに重要」ということを、ぜひ、これからUXデザイナーを目指す人達、すでにUXデザイナーの人も忘れないで欲しいと私個人としては願っております。
編集後記:
学生からの事後アンケートをみても非常にセミナーは好評でした。社会人枠も作って欲しいという声もありましたので、企業・各種団体・教育機関等に関わる方で御興味あれば本セミナーを講演致します。上述の体験作りに大事な4要素について、具体的な事例と共に話ができます。どうやってハナドケイのコンセプトを作ったのか…など。
ぜひお気軽に弊社まで御連絡下さい。